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子供の身長や体重、IQ・EQ・SQは遺伝?環境?(行動遺伝学の正しい認識)


ホンマでっか?な行動遺伝学


行動遺伝学が流行しています。

ちょっとネットで調べれば、知能は遺伝の影響が何%であるとか、性格は環境では変えられないとか、親の教育は将来の収入には関係ない、とかいう情報が、記事が、ニュースが溢れています。

子供の身長や体重、IQ・EQ・SQが、あたかも遺伝である程度決められているような内容です。

正直、この現状には、危機感を持っています。

なぜかというと、「子育ての仕方は子供にあまり影響を与えない」「どう子育てしようが子供の性質にはほとんど関係ない」、なんて言う学説を信じたせいで、みんなが子育て放棄しちゃうと、まじで未来が危ういですからね(笑)。

まあ冷静に考えれば、そんなことはないと思いますが(笑)

ということで、皆さんが安心して子育てできるよう、行動遺伝学の正しい理解の仕方を検証していきます。
(ちょっと数学や統計学が出てきます)

最初に言っときますが、
「知能の60%は遺伝で決まっている」なんて書いてあったら、それはウソですよ!!

IQ点数=遺伝×60%+環境×40%?


まず、「知能の60%は遺伝で決まっている」といった場合、知能はどう表せるでしょうか。

尚、行動遺伝学において「知能」という場合、「IQテストの点数」を指しています。

個人的にはIQテストの点数を知能と言い換えることに非常に抵抗があるので、ここでは必要な範囲でIQ点数と言い換えます(笑)

ちなみに、このブログではもう耳にタコができるほど言っていますが、
子供の遺伝子=母親の遺伝子×1/2+父親の遺伝子×1/2
ではありません。


これは前の記事にも書いた通り、行動遺伝学の立場でも明確に否定されています。

さて、ちょっと横道に逸れましたが、見出しにも書いた通り、

IQ点数=(遺伝×60%)+(環境×40%)

という式が成り立ってはじめて、IQ点数の60%は遺伝で決まると言えるのです。

以下、この公式が成り立つものとして、具体的に数字を当てはめてみましょう。

例えば、
IQ点数120の素晴らしい遺伝子を持っていながら、IQ点数80の環境しか与えられなかった場合、子どものIQ点数はどうなるでしょう。

(120×60%)+(80×40%)=104

ということで、IQ点数は104となります。

もっと極端な例でいきましょう。

IQ点数30の遺伝子しか持っていないけど、IQ点数150の驚異的な環境を与えられた場合は、

(30×60%)+(150×40%)=98

となります。

こうやってIQ点数は決まると言っているのです。

この計算結果、どう思います?
何か変じゃないですかね?

計算方法が正しいかは下の方で書くとして、
そもそも、「IQ点数30の遺伝子」って、どういう遺伝子なのでしょうか。
「IQ点数120の遺伝子」ってどんな親から生まれた子どもなんでしょうか。

行動遺伝学の一つの限界はこの点にあります。

すなわち、「遺伝が影響する」ということはわかっても、「特定の個人がどんな遺伝を持つか」ということはわからないのです。

なので、人によって向き不向きみたいなものがあるので、子どもを良く観察して、その子に合った方法で、色んな力を伸ばしていく必要がある、という、ごくごく当たり前のことだけ知っていれば十分なのです。

次は、もう一つの限界について書いていきます。


双子を対象にした双生児法


日本における行動遺伝学の第一人者は、慶應義塾大学の安藤寿康教授です。

安藤教授の行動遺伝学の成果については、同氏の本でも初期の頃と最近の本で言い方を変えている部分があり、古い情報を信じている人がいるのと、メディアが様々な発信の仕方をしており、これらが合わさって混乱を生む原因となっているのではないかと思います。

一番の誤解は、「遺伝率」の解釈についてです。

例えば、Newsweekの記事では以下のように述べられています(以下引用)。

「例えば、肥満傾向の強い遺伝子セットを持って生まれた人が痩せようと思ったら、そうでない人に比べて相当頑張らないといけないということです。

誤解されがちなんですが、持って生まれた性質は絶対に変わらないということではありません。あくまでも今のある社会における相対的な位置が、その社会で取りうる環境資源のバリエーションのもとで、どの程度変わりやすいかということ。

仮に身長の遺伝率が100%だとしても、社会全体が飢餓状態から飽食の時代に変わるなど、集団が全体として変われば、身長は伸びます。だけど今のその集団の中にある栄養の取り方のちがいやダイエット法の選び方くらいでは身長の順位は変わらない。」

~「遺伝」という言葉の誤解を解こう:行動遺伝学者 安藤寿康教授に聞く(2017年2月21日)


一方で同教授の著作物である「心はどのように遺伝するか―双生児が語る新しい遺伝観(2000年)」では、『遺伝と環境の寄与率を求める』というような、あたかも何%が遺伝、何%が環境で決まっている、というような誤解を招くような記載があります。

他方、最近の本「日本人の9割が知らない遺伝の真実(2016年)」では、『遺伝や環境の説明率は、集団レベルのものであり、個人にあてはめることはできない』ということをはっきり書いています。


この誤解の原因は、手法の難しさにあります。

行動遺伝学は、双生児法という双子を対象にした調査により、遺伝率を求めます。

そして、その遺伝率の求め方は、相関係数を用いたものです。

この相関係数が、誤解されやすい数字なのです。

「日本人の9割が知らない遺伝の真実(2016年)」でも、「相関係数から遺伝と環境の影響を算出する」とありますが、残念ながら違うのです。
統計学的に、相関係数からは、結果に対する影響度を導くことは不可能です。

まず言葉の定義から。

双生児法とは・・
一卵性あるいは二卵性の双生児を被験対象として,人間の身体的特質やその心的特性に対する遺伝的素因と環境的素因との影響を調べる方法。
コトバンク

相関係数とは・・
2つの確率変数の間にある線形な関係の強弱を測る指標である。
確率変数間の因果関係を説明するものでもない。
相関係数は順序尺度であり比尺度ではないので、例えば「相関係数が0.2と0.4であることから、後者は前者より2倍の相関がある」などと言うことはできない。
しばしば、相関があるという表現が、あたかも因果関係を示しているかのように誤解あるいは誤用される。
Wikipedia

この方法を用いてわかるのは、例えば知能の遺伝率が60%だったとすれば、「調査対象とした人達(集団)が属していた家庭環境・周辺環境・時代背景においては、その集団内の知能のバラつき(差異)は、60%は遺伝と関係している」ということのみです。
(これでも好意的に解釈してます笑)

つまり、知能の60%が遺伝によって決まっているのではなく、人によって知能に差があったとしたら、60%は遺伝が何らか関係している、というだけです。

ここ重要なので更に何度も言いますよ。

相関係数は、因果関係を導くものではありません。

なので、知能が高い遺伝子を持つからその60%の影響を受けて知能が高いのだ、とか知能が低い遺伝子を持つから知能が低いのだ、とか、遺伝子から安直に知能を導けるものではありません。

知能は環境とあいまって育ちます。

単に環境の影響を受けやすいかどうかではなく、特定の環境で知能が抜群に伸びる遺伝子もあるでしょうし、どんな環境でも平均的に伸びる遺伝子もあるでしょう。知能が高い人はたまたまその環境に合致して伸びたのかもしれません。

そういったことも含めて、結果としてIQ点数に差がついたら、それは遺伝が何らかの形で60%関係している、ということです。

従って、上に書いた、

IQ点数=(遺伝×60%)+(環境×40%)

という数式は正確ではなく、また、行動遺伝学は、この数式を証明した学問ではないということです。

おかしな例を挙げてみます。

双生児法では、一卵性双生児の相関係数と二卵性双生児の相関係数から、遺伝率と、共有環境の寄与率と非共有環境の寄与率を求めます
(共有環境と非共有環境については、著者も「実体は何だかわからない」と言っているので、無視してください(笑))

遺伝率をx、共有環境をy、非共有環境をzとし、
一卵性双生児の相関係数がa、二卵性双生児の相関係数をbだとすると、
二卵性双生児は一卵性双生児の半分の遺伝情報を共有していることから、

a=x+y
b=0.5x+y

が成り立つとしています。

まず、Wikipediaの相関係数の説明に矛盾してますね(笑)

まあそれは置いておくとして、IQ点数を例に挙げて、
a=0.73、b=0.46であることから、
0.73=x+y
0.46=0.5x+y

x=0.54、y=0.19

つまり、遺伝率は54%、共有環境の寄与率は19%であるとしています。

しかし、著者は触れていませんが、「数学の才能」について見てみると、グラフ上は、
a=0.89程度、b=0.04程度となっています。
0.89=x+y
0.04=0.5x+y
ですね。これを解くと
x=1.7、y=-0.81

つまり、遺伝率が170%、共有環境の寄与率はー(マイナス)81%となります。

遺伝率が170%てどういう事でしょう、また、環境の寄与率がマイナスって何でしょうか。
ちょっと意味がわかりません。

また、通常なら誰にでもあるものを考えてみても、遺伝率の誤解がわかります。

例えば、おへそがあるかないか
大体だれにでもありますよね。

この相関係数を出すと、一卵性双生児も二卵性双生児も、全員おへそを持っているので、aもbも1となります。

すると、
1=x+y
1=0.5x+y
となり、
x=0、y=1

つまり、遺伝率が0%、共有環境の寄与率が100%という結果となります(笑)。

従って、よくある誤解をそのままいえば、おへそがあるかないかは、共有環境で100%決まるということになります。

そんなはずはありませんよね(笑)。

いかがでしょうか。行動遺伝学の、というか遺伝率・相関係数の正しい理解の仕方が何となくわかっていただけましたでしょうか。

まあ私個人としては、そもそも環境の影響を排除して遺伝の影響を調べるために、双子を対象に調査しているのに、環境の影響を無視できない計算方法になっている時点で、もはや手法自体が破綻しているか、限界があるのではないかと、感覚的に思っています。

結局日々子どもと向き合ってみないと、はっきり言って何もわかんないですからね。
そして、遺伝でどれくらい影響があるかわかっても、その対処法が具体的に書かれていませんので、子育てする身としては、基本的に参考にしていません。
これが、この学問の「現状の」限界です。
いずれ、脳科学とかと共に進歩し、遺伝子に応じた対処法まで明らかにしてくれることがあればいいですね。

ということで、繰り返します。

「知能の60%は遺伝で決まっている」なんて書いてあったら、それはウソですよ!!


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